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bit Labs(ビットラボ)が目指す、未来のあるべき姿。大元 成和

さまざまなモバイルデバイスの登場、AI(人工知能)の活用、IoTの普及など、多くの局面でデジタル技術の範囲は急速な勢いで広がっています。企業はもちろん、一般市場向けのデジタル・ビジネスを加速するために、野村総合研究所(NRI)の中に新たに誕生したのが「bit Labs(ビットラボ)」です。そのリーダーをつとめるNRIの大元成和執行役員に、bit Labsの誕生経緯と目指す未来像を聞きました。

お客様のビジネスを直接支援する「bit Labs」

bit Labs誕生の経緯につきまして、教えてください。

NRIは50年以上にわたって、さまざまな企業様の企業戦略の提案、そしてシステム開発の運用を行ってきました。そのシステム開発の要は、大型の基幹業務システムです。ここでは、お客様のビジネスを遂行する上で不可欠なバックヤードの業務、事務処理を電子化して効率を追求するのが我々のメインのミッションでした。NRIではIT事業を「コーポレートIT(CIT)」と「ビジネスIT(BIT)」の2つに分けて考えています。「CIT」とは、今申し上げました、大型の基幹業務システムなどを指します。一方、「BIT」とは、お客様のビジネスを直接支援するITを指す言葉です。これは、具体的に言えばお客様のビジネス、売上に直結するITのことで、近年、急速に拡大するスマホなどのアプリ開発やフィンテックなどが、これに当てはまります。我々が新たに立ち上げた「bit Labs」の「ビット」とは、その「ビジネスIT」を表す「BIT」と、コンピュータの最小単位である「bit」をかけています。「ラボ」は実験室。R&D(研究開発)にとどまらず、人材や技術がお客様のビジネスを直接支援できるものにしていくことが、「bit Labs」のミッションです。

アジャイル開発の推進

お客様のビジネスに直接関与するITについて、bit Labsが特に貢献できることは何でしょうか。

「アジャイル開発」です。「アジャイル開発」という言葉自体は20年ほど前からあり、新しい手法ではありません。冒頭で申し上げた、我々が従来手がけてきた大型の基幹業務システムは、基本的に「ウォーターフォールモデル」で開発してきました。その名の通り、水が上流から下流に流れるように、要件定義から設計、製造、テストまで、各開発工程を、段階的に着実に進めていくやり方です。ここでは各工程で仕上げた成果を明確にドキュメントでまとめて進捗を管理していくため、開発には一定の期間がかかりました。一方、ご存知の通り、「アジャイル開発」は実装とテストを頻繁に繰り返して開発を進めていく手法です。小さな単位で進めていくため、従来の「ウォーターフォールモデル」での開発に比べ、大幅に開発期間が短縮されます。「アジャイル開発」はとても良いやり方ですが、実は日本の企業風土に合わない面があり、これまでにいろんな企業様がトライをして失敗を重ねてきました。私自身も失敗を経験しています。しかし、時代は急激に変化しています。アジャイル開発でスピーディーに対応していかないと競争を勝ち抜いていけないという危機感を持つ企業様も多く、我々のところには「アジャイル開発を効率よく行うにはどうしたらいいのか」という問い合わせが格段に増えています。我々は日本全体がアジャイル開発に向かわないと、欧米から取り残されてしまうのではないかという危機感を持っています。そのために、企業のCIO(最高情報責任者)、CTO(最高技術責任者)様向けに積極的にアジャイル開発に関するプログラムをご用意する一方で、現場のエンジニアの方々にもアジャイル開発に関する研修やコーチングワークショップなどをご用意して働きかけを行っています。bit Labsには、アジャイル開発が得意なエンジニアが揃っています。そして、彼らは過去にウォーターフォールモデルでのシステム開発にたずさわった経験も持っています。従来のシステム開発手法を知り尽くしているからこそ、時代の潮目をリアルに感じているのかもしれません。

インタビュー画像

外部パートナーとの連携も柔軟に

現在、bit Labsに所属する方々は何人くらいいらっしゃるのでしょうか。

30名前後になります。bit Labsの前身の部署の時代は10名程度でしたので、3倍の人数に増えてはいますが、少数精鋭ではあります。そこで、我々の手が足りない分野については、外部のパートナー企業と協業を行っています。すでにbit Labsの前身の頃から、UXデザイン(ユーザー体験設計)を得意とするTigerspike株式会社様と、さまざまなプロジェクトで協業を行ってきました。同社は徹底した調査と検討に基づくUXデザインを得意としており、今後もbit Labsと連携していきます。さらに、今後はデータサイエンティストを集めて、新たにアナリティクスセンターを別のパートナー企業と協業で立ち上げる予定があります。ここでは、近年、注目されるビッグデータの分析を行っていきます。現在、企業のマーケティング担当者の方々がGoogleアナリティクスなどを参照し消費者行動を分析するという作業は広く行われています。我々がやろうとしているのは、そうしたGoogleアナリティクスなどで観察できる消費者の行動履歴と、企業様が保有する基幹業務システムなどに偏在する複数のデータとを掛け合わせて分析することで、より深い顧客インサイトを得ようというものです。データサイエンティストには、3つの能力が求められるといいます。「ビジネス力」、「サイエンス力」、そして「エンジニアリング力」です。さらに、顧客データを取り扱うにはプライバシーの問題がありますので「信頼力」も鍵になるでしょう。我々はこれらをバランスよく備えたチームの力で、お客様のビジネスに貢献できると確信しています。

bit Labsの役割について、どのようにお考えでしょうか。

我々の役割は、ふたつあると考えています。ひとつにはR&Dとしての役割です。つねに先進的な取り組みを行い、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、成果があれば、NRI全体に寄与していきます。そして、もうひとつ、bit Labs自身が直接、ユーザーの皆さまとつながることのできるものを作っていくということです。自分たちがオーナーとなって開発を手がける経験には得難いものがあると思います。現在は前者が中心ですが、後者も増やすことで、このふたつの両輪で、bit Labsを育て、お客様のビジネス支援に貢献できる人材、システムを構築していきたいと考えています。

大元 成和

大元 成和Shigekazu Ohmoto

野村総合研究所(NRI) 執行役員DX生産革新本部 本部長

1991年 野村総合研究所に入社、保険システム部に配属。NRI情報システムへの出向などを経て、2010年4月保険システム二部長に就任。2014年4月には人事部長に就任し、2015年4月に経営役、2018年4月に生産革新本部長として執行役員に就任。