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bit Labs TALK SESSION Vol.1加速するDX時代のあるべきチーム・リーダーシップとは(後編)タイガースパイク 根岸慶大元成和

DXという言葉が広く世の中に浸透し、ニュースなどでも耳にする機会が増えました。DXは現在進行形で加速しつづけています。こうした変革の過渡期において、現場の指揮を任されるリーダーは何に悩み、どのような解決策を見出しているのでしょうか。長くDXと組織運営に携わり、互いにパートナーとして信頼するタイガースパイク株式会社代表執行役員の根岸慶氏と、NRI執行役員の大元成和が語り合います。

矛盾は認めていい。その上で、矛盾を飲み込むビジョンを示す

社会にも現場にもさまざまな矛盾がある中で、リーダーはどうするべきでしょう?

大元 まず、リーダーは矛盾があることをメンバーに伝えるべきですね。チームがどういう立場で、何を目的に、何をビジョンに進んでいるのかをしっかりと共有できれば、矛盾を抱えていてもうまくやっていけると思います。


根岸 昔はビジョンといえば、企業理念のことを指していたと思うんです。だけど最近はもうちょっと小さな、ミクロなビジョンという考え方があって、これが今後の肝になる気がします。トランスフォーメーションが必要なかった緩やかな時代は、みんなが合意した方向にゆっくり進めばゴールにたどり着けたんです。しかしこれだけ変化が早くて、正解がない世の中になると、論理的・合理的に答えが出せません。なので、ビジョンという言葉の通り、自分の見ている世界観を描き、自分の信じるところを伝えないと、もう前に進めなくなっていると思います。


大元 今パーパス経営が盛んに言われているのもその流れですね。やはりビジョンをしっかりと頭に描いて「どの方向に」「何のために」「どういうゴールなのか」をメンバーと共有することが重要です。売上目標や利益目標はガチッとくるけど、今大切なのは、それにともなうソフトなところ。例えばSDGsもそう。企業の場合、サステナブルな社会をどう作るか、どう貢献するかもビジョンの1つになると思います。 インタビュー画像大元


根岸 だんだん組織も溶けてきていますよね。会社って何のためにあるの、なぜ会社に人が集まっているのって、何かしらの目的を達成するためですよね。それがビジョンだと思うんですけど、これだけ働き方が多様化して、環境の変化も早くなると、いちいち会社という形をとる必要もないんですよね。ビジョンに人が集まるという形、新しいあり方が生まれてきている。そうすると僕は会社をやっていて、大元さんも会社の組織を運営しているわけですけど、その組織にわざわざいてくれる人に対して、見合うビジョンや価値を提供できなかったら、組織の壁を超えられちゃうと思うんですよね。特にできる人には。その人たちに何を見せられるか、究極的にはそれ次第。僕はいつもドキドキしています。


大元 ウチの会社をネットで調べると、給与が高いと出てきます。でもそれで優秀な人が入ってくれるかというと、もちろん理由の一つにはなるかもしれないけど、これからはそれだけではダメなんですよね。長く働いてくれる理由も、やめる理由もそれだけじゃない。何が見せられるか、何を共有できるか。それをCEOからはじまって、どんな役職の階層でも示せないといけません。


根岸 そこが大事ですよね。「上がこう言ってるからやって」ではなくて、ビジョンを自分なりに噛み砕いて、自分の言葉で伝えていかないと難しい。


大元 上から降りてきたものを受けて、「自分のチームはこういうことをするんだ」というところを伝えていかないと。


根岸 特に若い人は多様性の中で育って、デジタルネイティブだから、そうじゃないとよそに移っちゃう。リーダーに語れることがあって、そこについてきてもらわないといけない。逆にそこに納得してもらえれば、すごく強くつながれる。あとビジョンは唯一無二のものじゃないと、彼らは「ここじゃなくてもいいじゃん」となるので、リーダーは大変ですよね。僕もまだまだなのですが(笑)。


大元 私もようやくですが、ここ数年は本部会などで「私はこう思う」ということを、なるべくハッキリ言うようにしています。



エモーショナルな部分にリーチして、初めて人は動く

ビジョンが大切な一方、組織には数値的な目標もありますが?

大元 数値目標もソフトとしてのビジョンも、両方しっかりしてないとダメですよね。


根岸 そうですね、価値観が多様になったからこそですね。しかもその多様さがちょっとした幅じゃなくて、ものすごく多様になり、そのうえ正解が見えない。でも一歩ずつ進まないと、正解に近づいていけない。そうすると必要なのは勇気です。勇気に必要なのはビジョン。だって正解がないのだから、結局想いとかで前に進まないと。アジャイルだと何が出てくるかわからないからこそ、どれだけ信じられるかということになる。ということは、どれだけビジョナリーに語って、人を動かせるかが勝負ですよね。プロジェクトをアジャイルでやるときに、プロダクトオーナーが「嫌なプロダクトにアサインされちゃったんですよね」とか言っていたら、何も生まれないと思います。


大元 そこは想いを持ってプロダクトオーナーが方向を示さないと、アジャイルは進んでいかない。リーダーの悩みの話でいえば、まず大事なのは、リーダー自身が想いとかビジョンをきちんと作れているか。その次に、部下やステークホルダーに話せているか。それが最初に取り組むべきところかもしれません。ただ上から数字が降りてきて、その数値を達成するために効率化を繰り返しているだけだと、多様性豊かなメンバーに見離されてしまいます。


根岸 以前セミナーに登壇していて「どんな顧客と働きたいですか?」と聞かれたことがあって。やっぱり「そのプロダクトやサービスに想いがある人」と答えたんです。そういう人じゃないと、何かにぶつかった時に進めないので。じゃあ自分はどうだと省みると、全然足りていない。今話していて思うのは、ただ口にするだけではしょうがないんですよね。言葉が心に伝わって、それで一緒にやろうと思うとかワクワクするとか、エモーショナルな部分にリーチして、初めて人は動くんだろうなと。そう考えると、それができる人は日本には少ないだろうなと思います。僕もまさに修業の身だと思ってます。


大元 私もグサッと(笑)。



どういう人生観で仕事しているかを語れないといけない

ビジョンを周りに伝えるために、心がけていることはありますか?

大元 私は本をたくさん読みますね。松下幸之助やピーター・ドラッカーからはじまって、色々と。マネージメントする人の理論や言葉を学ぶんです。自分の言葉で伝えられないときに、人の助けを借りるというか。「松下幸之助はこう言ってたよ」とか、自分の能力の足りないところを幸之助さんに頼っています(笑)。


根岸 本は読むようになりましたね、いつのまにか。30代の時はハーバードビジネスレビューとかを読んでいる人になりたいと思っていたけど、今はそういうのに触れるのは当たり前という感覚があって。例えば今日の対談に出てくるキーワードも、昔だったらついていけない言葉がたくさんあったと思います。リーダーは言葉や想いを、鍛錬しなければいけないと思います。僕が心がけていたのは、好き嫌いをはっきり伝えるということ。ウチの会社でも「『嫌だ』って言おう」と呼びかけていました。会社に入って「嫌だ」って絶対言わないじゃないですか。でも本当はそれが、もっともらしい言葉よりも先に頭に浮かんでるはずなんですよね。なのに無理に塞いで、引き受ける理由を自分の中に無理やり探したりして。でも本当に自分のやりたいことを見つけるには、好き嫌いの感情に敏感じゃないと。僕も昔は四角い頭になっていて、自分の好きとかやりたいとか、熱源のようなものがまったく見えていませんでした。今はそういうのを解放している感じがあります。そうなると、いいとか悪いとかは、いつでも伝えられるようになるんですよね。それがプチビジョンのようなものになり、地続きでビジョンにつながる気がします。 インタビュー画像根岸


大元 いい悪いがちゃんと言える環境はいいですね。


根岸 最近ビジョナリーな人を語る文脈で、徳とか賢者とか、生きる上でのスタンスが問われるという話があって。普段から思っていることが大事なんですよね。人間、心に思っていることが外に出るので、悪を持っていれば悪が出ちゃう。なので、どこまで自分の考えにブレがないかとか、本当に自分が心からそう思えているか、みたいなことを意識するようになりました。


大元 私も部下と一緒に、宗教から哲学までリベラルアーツ的に学んだことがあります。海外に行くと、向こうのビジネスマンって哲学を語るので。どういう人生観で仕事をしているかというのを、きちんと語れないといけないなと。


根岸 自分が本当に思っていることを出したいですね。それがちゃんと相手に伝わって、いいねと思ってもらえる考えだったら、自分が自然体でいられるはずなんです。だから自分の考えが相手と違っていたとき、なぜ自分はそう思っているのか問い直すようにしています。それがリーダーとしてビジョンを語るときに、いちばん重要になってくる。周りの多様性が増せば増すほど、違う角度から違うことを言われるので。AさんBさんCさんそれぞれと話して、自分の中に矛盾やブレがあると、みんなから何なのと言われてしまう。文脈に応じて話し方は変わっても、同じ軸の中で話すことが大事です。世の中が多様になるほど、自分の軸が問われるようになる。自分がきちんとブレなく言えているかを検証しつづける、人間修行のような感覚がありますね。


大元 私がめざすところは、羽生善治さん。彼がインタビューで「何手先を見ますか?」と質問されていたんです。羽生さんくらいになると、色んな戦術が頭に入っているわけですけど、いちばんいいのは、何手か先を考えつつ、直感で打つことだそうです。そんな人間になりたいものだなと。名人のレベルまでいくと、直感が正解になる。そのくらいまでたどり着きたいですね。


根岸 たしか筋が光ると書いてありました。理屈じゃないんだ、みたいな(笑)。


大元 そこまでは難しいとしても、研鑽を積まないとね。



話せる関係を築くには「勇気を出して弱さを出す」

では最後に、悪戦苦闘をつづける現場のリーダーにアドバイスをお願いします。

大元 頭でっかちにならないこと。私自身悩みながらやっていますが、まず行動してみる。何かいいなと思ったら実行してみる。朝令暮改でもいいので、やってみてダメだったら、きちんとチームのメンバーになぜダメだったのかを話して、次を試してみる。複雑なことを複雑に考えず、単純に紐解き、1つずつブレイクダウンして行動に移す、というところからスタートして欲しいですね。


根岸 僕だっていきなりビジョンを出せとか言われたら困る。もっと身近なことからはじめるといいですね。例えば「弱さ」を出すことは、自分でコントロールできると思う。最初は勇気がいるんですけど、一度弱さを見せると、案外人って優しくしてくれるんです。リーダーというポジションにつくと、自分の方ができていないといけないとか、上に立って何かを指揮しなければとか思うけど、そのときに「ごめん俺わかんないわ」って言えると、周りが手伝ってくれたり、いい意味で「なんだ、リーダーも人じゃん」って思われて、もっと話せるようになったりする。そういう関係性が作れると、自分の本当のところも話せるようになり、地続きでビジョンにも自然とつながっていく気がします。まずは「勇気を出して弱さを出す」ということが、少しずつでもできるといいんじゃないでしょうか。


ありがとうございました。

根岸 慶

根岸 慶Kei Negishi

Tigerspike株式会社 代表執行役員

1975年生まれ。中央大学法学部卒業後、1999年に日本電信電話株式会社に入社。その後NTT再編に伴い、NTTコミュニケーションズ株式会社に転籍。主に法人営業、新規事業開発を担当。2006年にベトナムでオフショア開発を運営するインディビジュアルシステムズ株式会社に参画し、日本担当役員として日本市場の開拓を担い、企業規模拡大に貢献。2014年、タイガースパイク東京オフィスを単独で立ち上げ、ナショナルクライアント(銀行、保険、自動車、航空等)との取引を開始。2015年、同社日本法人の正式な設立とともに、代表執行役員に就任。

大元 成和

大元 成和Shigekazu Ohmoto

執行役員マルチクラウドインテグレーション事業本部長

1991年NRI入社後、保険ソリューション事業本部にて保険会社向けの情報システム開発・保守・運用に従事。その後、本社機構人事部長を経て、DX生産革新本部でコンサルティングからシステムソリューションまで全社横断のDX推進活動、生産革新事業などに携わり、現在に至る。