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bit Labs TALK SESSION Vol.1加速するDX時代のあるべきチーム・リーダーシップとは(前編)タイガースパイク 根岸慶大元成和

DXという言葉が広く世の中に浸透し、ニュースなどでも耳にする機会が増えました。DXは現在進行形で加速しつづけています。こうした変革の過渡期において、現場の指揮を任されるリーダーは何に悩み、どのような解決策を見出しているのでしょうか。長くDXと組織運営に携わり、互いにパートナーとして信頼するタイガースパイク株式会社代表執行役員の根岸慶氏と、NRI執行役員の大元成和が語り合います。

大元 野村総合研究所の大元です。私は入社から約20年アプリケーションエンジニアをやって、プロジェクトマネージャや部長職を務めました。それから人事に移ったのですが、bit Labsの立ち上げ途中だった生産革新本部に呼ばれて、5年ほどレガシーとDX案件の生産性向上に取り組みました。ちょうどDXという言葉が世の中に出回りはじめた頃です。現在はマルチクラウドインテグレーション事業本部の役員として、パブリッククラウドやプライベートクラウドをマルチに組み合わせて、効率的に基盤を作る事業を担当しています。

根岸 タイガースパイクの根岸といいます。僕はもともと新卒でNTTに入ったのですが、すぐにNTTが分社化して、NTTコミュニケーションズの所属になりました。そこで営業や営業企画を学んでから、ベトナムでオフショア開発をするベンチャー企業に移りました。ほぼ立ち上げを担う形でしたね。その後2014年にタイガースパイクに加わり、日本拠点をゼロから立ち上げました。当時はDXという言葉もなかったのですが、デザイン思考やアジャイルを組み合わせてデジタルプロダクトを作るという、今でいうDXのど真ん中のことをしていました。そういう文脈だと、DXと会社経営の両方をやってきた感じです。よろしくお願いします。

大元NRIとはいつからでしたっけ?

根岸 NRIの方に最初にお会いしたのは2014年ですね。大元さんに初めてお目にかかったのは2017年で、新しいデジタルのブランド(現bit Labs)をつくろうとしているというお話しを伺いました。
大元 bit Labsの立ち上げから、ずっとご一緒させていただいてるってことですね。


コロナ以後はDXの「トランスフォーメーション」まで進むようになった

DX時代という見方をすると、現在はどんなフェーズにいるのでしょうか?

大元 DXが叫ばれるようになってずいぶん経ちますが、コロナ前後で景色が違うなと。コロナ前は「デジタルトランスフォーメーション」の中でも「デジタル」が優先されていました。結局デジタルは変革のための手段でしかないのに、目標になってしまって。そういうプロジェクトがいくつも浮かんでは消え、PoC疲れだとかPoC貧乏だとか色々言われていました。本当にトランスフォーメーションまでできたプロジェクトは、ゼロとは言わないものの、少なかったんです。ただコロナを契機に世の中がガラッと変わりはじめたので、企業もトランスフォーメーションせざるを得ない。例えばECサイトはコロナ以降ものすごく増えているし、工夫もされています。ニューノーマルというとありきたりですが、コロナによって色んなことが一気に進んだ。今まではデジタル優先だったけど、やっとトランスフォーメーションまできちんとやり切るところにきたという実感があります。

インタビュー画像大元

根岸 僕もそういう感覚があります。前はデジタルという言葉が先行していた気がします。この業界って、新しい言葉が大好きじゃないですか(笑)。同じ意味なのに、数年すると違う言葉に変わっている。だけど僕の中ではインターネット革命がずっとつづいている感じ。この革命はすごく大きくて、産業革命に匹敵する。


20年前にはじまったインターネット革命が現在もつづいているということですね。一体どんな変化なのでしょう?

根岸 2つあると思っています。1つは多様性が大きく広がったということです。ニューノーマルのような変化も、もともと必ずくるはずだったもので、コロナはそれを早めただけという気がするのですが、とにかくインターネット前までずっと固定化して画一的だった価値観や働き方や生き方が、個別化して多面的になっていった。もう1つは展開のスピード。ちょっと考えられないくらいになってきた。例えばテクノロジーでいえば、飛行機やテレビはユーザーが5000万人になるのに何年かかりましたか?数十年かかりましたよね。なのに、iPodが4年、Twitterが2年、ポケモンGOが19日とか。ものすごい早さになっている。でもこれだけ早く、画一的な展開ができるようになると、周りもそれに追いついていかなきゃいけなくなるんですよね。で、当然追いつけない人も出てくる。いわば、変化が不連続に起こるようになって、至るところにほころびが生まれている状態。しかも、この状態はこれからも変わらないんですよね。変化が当たり前になったら、DXという言葉もいずれなくなるんじゃないでしょうか。

インタビュー画像根岸


あらゆるレイヤーで矛盾が表面化してきている

DXが進むことで、現場のチームには何が起きているのでしょう?

大元 弊社には、レガシーシステムで金融機関のバックオフィスをサポートする業務があります。DXを推進しながら、その一方ではデジタル系ではないシステムを製造・保守しているわけで、その間には少なからず矛盾のようなものを社内でも抱えています。例えば、新卒で入ってくる社員が、10年前とは全然違うんですよね。SNSもネイティブですし、データサイエンスの基礎も身につけている。僕たちの学生時代にはそんなのなかったじゃないですか?彼らはデジタルに何の抵抗もなく、データ分析とかにもすんなり入っていけるので、デジタルの仕事をやりたがる。だけど、会社の収益源はまだまだレガシーの仕事だったりするので、新しいことをやらなければいけないけど、古いものも守らなければいけない、という矛盾が起きている。


根岸 今が過渡期だということは、強く感じますね。NRIさんのようなITを手がける先進的な企業でさえ、そういう矛盾を抱えている。やはり、いわゆる「金の成る木」の事業を担うチームと、新しい事業の探索を担うチームの差はあって。弊社のお客様も、日本の大手の会社が多いので、みなさん同じようなことをおっしゃいます。「早く新しいことをやらなければいけない」「今は市場があっというまに変わるから、昔のように10年とか待ってられない」「でも人はそんなに早く変われない」とか。


そうした矛盾にどう対応しているのでしょうか?

根岸 ちょっと前に、出島のような形で新しい組織をつくるのが流行ったんですよね。既存の組織と無理くり切り離して、何か新しいものを生み出そうみたいな。でもなかなか難しいようで、今のところ成功したという例はあまり聞きませんね。


大元 そうですね。強引に社長直轄の新しい組織を作って、特権的に何かやらせたりしても、長続きしませんね。


根岸 結局、本業と違う事業をいきなりはじめて、数千人を食わせられるかというと難しくて。そこで作ったプロダクトも、やがて既存の事業と連携していったりするんですよね。でも、そういうときに組織の温度差が出て、つながっていかない。ではどうするかということで今模索されつつあるのが、「不連続で安定しない世の中に、組織全体を進化させて合わせていく」というやり方。僕もそれを現実に落としこむような形で、組織づくりをお手伝いできればと考えています。


具体的にはどう組織を変えていくのでしょうか?

根岸 組織のあり方もそうですけど、予算の組み方や、人の採用も、今は年間で考えるのが前提になっている。だけど果たしてそれでいいのか。例えば四半期に切り替えたほうがいいんじゃないか。何とかアジリティを持たせる形にしていかないと。ここ数年、組織の一部だけではやってみたんですけど、これからは組織全体で取り組むようになっていくのかなと。


大元 私も本部長という立場で本部員が500人くらいいます。両利きの経営(※チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン/東洋経済新報社)じゃないですけど、1つの組織の中にレガシーと新しい事業という目的の異なるメンバーが混在する中で、どう舵取りしていくか、今まさに試行錯誤しながら考えつづけているところです。


根岸 どの辺りに難しさがあるんですかね?


大元 文化というか、仕事のやりかたの違いですね。例えばウォーターフォール型から、アジャイル型に変えていかなければいけないという障壁があります。あとはレガシー側からDX側を見たときに「うらやましい」と思うような、感情の障壁ですね。DX側はなかなかお金にならないんですけど、華やかじゃないですか。一方、レガシー側は稼ぐんですけど、地味に見えるので。「あっちは稼いでいないのに楽しそうだな」みたいな、そういう気持ちはあると思う。互いの違いを理解しつつ互いを認め合って、矛盾を解消していく必要がありますね。


そうした矛盾は、時代や社会といったレイヤーでも見られるのでしょうか?

根岸 矛盾は昔からあったんですけど、今はそれが表面化してきている、せざるを得なくなっているのかなと思います。いちばん大きなところでいうと、資本主義ってどこまでいけるのか、今のままでいけるのかという話ですかね。成長の限界が言われはじめたのは1970年代ですが、ここにきて集中豪雨や台風など、目に見える形になって世界各地で環境破壊のしっぺ返しが起きている。さすがにこのままでいいのかとみんな思っているのではないでしょうか。さっきのインターネット革命の多様性の話と重なるところでもあります。前だったら「こっちに進め」と言われたらみんながこっちに進んでいたけど、今は違うと思った人は違う方に進める。そういう動きが取れるようになってきたのが、分断とまでは言わないけど、現在起きていることだと思います。


大元 インターネット革命以降これだけテクノロジーが発達したのに、先進国のGDPが伸びていない。このままだと、資本主義の限界が見えてきてしまう。なので、これからは株主資本主義じゃなくて社会資本主義だとか、新しい資本主義がSDGsやカーボンニュートラルに絡むところも解決するとか言われています。そういう考え方が生まれたのは、これまでの色んな問題がすでに限界に達していて、コロナを契機に明らかになったということだと思っています。


根岸 もう気づかざるを得ない。特に若い人は敏感で、自分たちがSDGsなどに取り組んでいくという意識もある。そうなるとますます、企業にいて金を稼ぐ意味や、結果としてそれがもたらすものは何か、ということを考えざるを得なくなる。それは多かれ少なかれ、もうみんなが思っていることかと思います。

根岸 慶

根岸 慶Kei Negishi

Tigerspike株式会社 代表執行役員

1975年生まれ。中央大学法学部卒業後、1999年に日本電信電話株式会社に入社。その後NTT再編に伴い、NTTコミュニケーションズ株式会社に転籍。主に法人営業、新規事業開発を担当。2006年にベトナムでオフショア開発を運営するインディビジュアルシステムズ株式会社に参画し、日本担当役員として日本市場の開拓を担い、企業規模拡大に貢献。2014年、タイガースパイク東京オフィスを単独で立ち上げ、ナショナルクライアント(銀行、保険、自動車、航空等)との取引を開始。2015年、同社日本法人の正式な設立とともに、代表執行役員に就任。

大元 成和

大元 成和Shigekazu Ohmoto

執行役員マルチクラウドインテグレーション事業本部長

1991年NRI入社後、保険ソリューション事業本部にて保険会社向けの情報システム開発・保守・運用に従事。その後、本社機構人事部長を経て、DX生産革新本部でコンサルティングからシステムソリューションまで全社横断のDX推進活動、生産革新事業などに携わり、現在に至る。