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2021.09.07

エンタープライズアジャイル連載第1回
エンタープライズアジャイルとは

人物

家田 暁
Akira Ieda

はじめに

 近年、DXの議論において、「エンタープライズアジャイル」という言葉を聞くことが増えています。しかし、「エンタープライズアジャイル」の定義は曖昧で、「アジャイル開発」と何が違うのか/同じなのか、判然としない方も多いのではないでしょうか。本レポートでは、bitLabsの考える「エンタープライズアジャイルとは」を明確にするとともに、企業におけるエンタープライズアジャイルの実現にあたっての課題を詳らかにしていきます。なお、連載レポートを予定しており、次回以降で実現に向けたステップや考え方を論じていきます。

エンタープライズアジャイルとは

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 「エンタープライズアジャイル」という言葉が用いられる文脈を分析すると、以下の4つのいずれかを意図していることが多いと言えます。

  1. 組織としてのアジャイル開発支援:現場のアジャイル開発に対して、企業として理解し、支援、環境整備をするとともに、円滑な推進に向けて組織や企業そのものをアジャイルに運営すること
  2. 大規模なアジャイル開発:大規模なプロジェクトをアジャイル開発で実施すること
  3. 基幹システムのアジャイル開発:基幹システムをアジャイル開発で開発・更改すること
  4. ウォーターフォールとの組合せ:ウォーターフォール開発とアジャイル開発を組み合わせること

 このうち、bitLabsでは、「1.組織としてのアジャイル開発支援」にフォーカスを当てています。理由としては、結果的に「2.大規模なアジャイル開発」、「3.基幹システムのアジャイル開発」、「4.ウォーターフォールとの組合せ」が必要になる可能性や、そこに至る可能性はあるものの、当初から主目的として設定してしまうと、頓挫することが多いためです。本当にその大規模なシステムや基幹システムをアジャイルで開発する必要があるのか・メリットが享受できるのか、ウォーターフォールと組合せなくてはいけないのか、など十分な検討が必要です。

 bitLabsでは、アジャイルを導入する目的は突き詰めると「ビジネスの戦略~実現までのアジリティを高める」ことだと考えており、その実現に向けて組織としてアジャイル開発の支援や推進をしていくことが必要だと捉えています。なお、エンタープライズアジャイルのフレームワークとしてデファクトスタンダードになりつつある、SAFe®にも、組織としてのアジャイル開発支援のプラクティスが組み込まれています。

エンタープライズアジャイルの障壁

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 エンタープライズアジャイルの実現にあたって、企業活動や企業形態が時に障壁になる場合があります。bitLabsではこれらの障壁を、「プロセス・ルール」、「組織構造」、及び「人・文化・マインド」の3つに大別して捉えています。これらの障壁は、従来は効率的にビジネスを推進していくために必要なものであり、決して障壁ではありませんでした。しかし、アジャイル開発といった新しい価値観の中では、それが足かせとなることが増えてきたというのが現状です。

プロセス・ルール

 厳格かつ画一的な社内プロセス・ルールが存在し、それを厳守することが求められる

  • 煩雑・複雑なレビュープロセス
  • アジャイル開発の障害になるセキュリティ規制
  • 計画駆動型の開発に適した品質管理の厳格なプロセス・ルール
  • 計画駆動型の開発に適したドキュメントの厳格なルール
  • 計画駆動型の開発に適した予算策定プロセス・ルール
  • 中長期的な計画~実行型の働き方に合った評価制度整備 など

組織構造

 縦横の関係性が、スピードや協調を阻害しがち

  • 何かを変えるために関わるステークホルダーが多い
  • 1つのプロダクトに関わるステークホルダーが多い
  • 上層部と現場に距離がある一方で、権限は現場になく、報告と承認による意思決定プロセスが必要
  • ビジネス部門とIT部門(IT子会社)の距離が遠い・明確な力関係がある
  • 組織ごとに責任が局所的に分割されている など

人・文化・マインド

 過去の成功体験や、現在の安定により挑戦や変化の必要性が低いと捉えている

  • IT部門は、求められたものを正確に作ることが価値である環境
  • ビジネス部門がITに興味がない/ITをビジネスの武器だと捉えていない
  • 新しいことに率先して取り組むイノベーター、アーリーアダプター気質の人員が少ない
  • 上から目先の事業継続を求められ、「新規」「変化」の優先度が下がりがち
  • 失敗を許容しにくい、減点評価 など

bitLabsの考えるエンタープライズアジャイル実現に必要なこと

 これらの障壁を乗り越えてエンタープライズアジャイルを実現するためは、「Vision、Leader、Culture、Team」の4つの要素が欠かせません。

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 bitLabsでは、これら4つの要素を育んでいくために、各要素にまたがる4つのActionが必要だと考えています。これらのActionが、有機的に機能していくことで、変化に強いアジャイルな組織が醸成されていきます。

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おわりに

 次回以降でエンタープライズアジャイル実現のためのロードマップや、ロードマップ上の各ステップについて解説していく予定です。

 前章の4つの要素やActionを見てわかるように、エンタープライズアジャイルは、開発現場だけの努力ではなし得ない、全社を巻き込んだ活動となります。そのため、「ここまで求めていない」、「とにかくアジャイル開発をうまく回るようにしてくれさえすれば良い」といった声を頂戴することが多いのも事実です。しかし、アジャイル開発の推進・支援にあたって、多くの企業が様々な課題に直面するシーンを目の当たりにしてきて感じたのは、開発現場への働きかけだけでは解決が困難なものが多いということでした。言い換えると、他組織や、マネジメント層へ働きかけることで円滑に動き出す事象が非常に多く見られました。これを踏まえて、課題に直面する前に予め下地を整えておくことで、ビジネスアジリティを一気に向上させることができるのが、エンタープライズアジャイルだと考えています。急がば回れ、アジリティを高めるための準備をはじめませんか。それでは。

家田 暁

家田 暁Akira Ieda

専門領域:アジャイルディベロップメント

お客様とともに悩みながら、新たなビジネス・新しい仕組みを検討し、思いがけない角度からアイデアを投げ込みつつ、お客様の事情を踏まえて実現に向けた支援をしている。
これまで、官民幅広いお客様をご支援。専門は、新規ビジネス検討支援、アジャイルコーチ、アジャイル組織検討支援、アジャイルドキュメント策定支援、システム化構想、システム調達支援、工程管理支援、クラウド移行検討支援など。
趣味は、ワイナリー巡り、マイナー観光地巡り、家庭内筋トレ。